”世界中で一番演技力のあるバレエ団。ダンサーは最高の俳優や女優であるかのようだ”と、雑誌 Dance Europe でも絶賛された今回の公演。

　皆さんにご紹介するのは、バレエとして世界初演のクレオパトラである。
２月２６日にリーズで公演初日を迎えたノーザンバレエ団は、その後イギリス全土をツアーし、最近ロンドンの サドラーズ ウェルズ劇場において最終公演を終えたばかりだ。
　デイヴィット ニクソン氏の振付に加え、今回はアメリカのブロードウェイで、”ミス サイゴン” や ”レ ミゼラブル”の作曲をしたクロード ミッシェルが、新曲とシナリオを提供している。

　物語はエジプト王の暗殺、シーザーやアントニーとの引き裂かれるような別れ、そして最後には毒蛇で自殺を図るクレオパトラを中心に進んでいく。
　このバレエ団のプリマバレリーナ、マーサー リーボルトが見事なクレオパトラを演じている。
情熱的で官能的な表現を得意とするこのバレエ団にとって、彼女の存在はなくてはならないものだ。

　ある時はぞっとする程恐ろしく、またある時は官能的に、そしてふと愛しい人を失うかもしれない不安げな表情をも見せるクレオパトラ。
そんな彼女を眺めていると、人間とはなんと多面的な存在なのだろうと思わずにはいられない。

　 シーザーとの間に赤ん坊を授かるシーンは、特に素晴らしかった。舞台上に長く伸びた真っ白な布を侍女が少しずつ丸めて赤ん坊が誕生し、クレオパトラに手渡されるのだ。
新しい命に対する愛おしさが王族の気品と混じりあって、観たこともない美しいシーンを創りだしていた。

　又、クライマックスでは、アントニーがクレオパトラにナイフを渡し自分を殺してくれと頼むのだが、突然彼女が飛び上がり彼にナイフを突き立てた瞬間、観ている私達もドキッとし、しばらくの間心臓の鼓動が止まらなかった。

　男性の繊細さ、女性の強さを際立たせる振付や演出は、私達人間の心の深部まで入り込み、観客の心を揺さぶり続けるのである。（６月２日記）